2015年8月劇評
八月納涼歌舞伎
八月と言えば、納涼歌舞伎!
勘三郎さんがお元気なころからの私の定番です。
今回は、一部<おちくぼ物語>と<棒しばり>を見てきました。
おちくぼ物語
落窪物語は、平安時代に書かれたといわれる作者不詳の作品。
日本版シンデレラとして知られています。
枕草子に記述があることから、日本最古の物語とも言われているのですが、
その内容は、古臭さを感じさせず、むしろそのストーリー展開にワクワク
ハラハラさせられる、とても素晴らしい作品です。
歌舞伎<おちくぼ物語>は劇作家の宇野信夫が書き下ろした新作歌舞伎で
全四巻からなる落窪物語の、前半部分のハッピーエンドで終わる場面までのお話です。
新作歌舞伎なので、イヤホンガイドもいらないくらい、分かりやすくて面白いのですが、
ちょうど田辺聖子さん訳の落窪物語を読み終わった後だったので、
より一層楽しめました。
おちくぼの姫には、中村七之助丈。お相手の左近少将に中村隼人丈。
おちくぼの侍女、阿漕には、坂東新悟丈、帯刀には坂東巳之助丈。
そして、おちくぼの姫を苛める北の方に、市川高麗蔵丈。
おちくぼの実父に、坂東彌十郎丈と、まさにピッタリの配役です。
夏の暑い盛り、早起きして第一幕目で見るのにピッタリの、
爽やかで後味の良い作品でした。
棒しばり
八月納涼歌舞伎と言えば、棒しばりでしょうか?
盟友、中村勘三郎さんと、坂東三津五郎さんが度々組まれた
棒しばりの太郎冠者と次郎冠者。
勘三郎さんがお亡くなりになった次の年の納涼歌舞伎では、
勘九郎くんと三津五郎さんが演じられました。
まだまだ荒削りですが若さあふれる勘九郎くんと、
歳の差を感じさせぬ三津五郎さんの溌剌とした舞が印象的でした。
そして、三津五郎さんがお亡くなりになった今年の納涼歌舞伎では
三津五郎さんのご子息、坂東巳之助さんと勘九郎くんが演じられました。
2人が並んで舞い始めた時、胸にグッとくるものは確かにあったのですが、
最後には、お父上二人の影はひっそりと消え、
若い二人の晴々とした舞が印象に残りました。
もともと巳之助さんはお父上とはタイプが違い、勘九郎くんのように、
面影がチラつくことはなかったのですが、今回の舞台では、
勘九郎くんもとても自由に見えました。
世代交代の転機を見ることができたように思います。
そして、その世代交代、お客様にもとても喜ばれているように感じました。
場内からは、大きな笑いや感動の拍手がおこり、歌舞伎座全体が
大満足のうちに幕が下りたような気がしました。
私ももちろん、心地よい気分のまま劇場を後にすることができました。