2015年9月〜11月劇評
秀山祭九月大歌舞伎
通し狂言 伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)
大好きな演目を久しぶりに、玉三郎さんの政岡で観劇できたことが
何よりのご馳走でした!
お茶のお稽古を始めるきっかけともなった、この作品。
政岡が風炉を使ってご飯を炊く場面がなんとも美しくて忘れられなくて、
茶道の師の門をたたいたのですが、あれから5年余り。
玉三郎さんの所作は、変わらず美しいままでした。
私もいつの日かあのような人を惹きつけるお点前が出来ればと、
五年前とは違う感覚で拝見した舞台でした。
また、御殿でのくどきの場面も、やはり玉三郎さんは別格の説得力でした。
同じ型で演じていても、それが型のままの役者さんもいれば、
意味のある動きに変わる役者さんもいると、つくづく感じました。
玉三郎さんの動きには、一分として無駄だったり意味の分からないものはない、
素人にこそわかる説得力のあるお芝居なんだなあと思いました。
スーパー歌舞伎Ⅱワンピース
猿之助さんが、2014年から始められたスーパー歌舞伎セカンドの第二弾。
今回は、大人気コミックのワンピースを歌舞伎に書き直した作品です。
ワンピース自体を知らないままで大丈夫かなと心配だったのですが、
それは杞憂に終わりました。
あくの強いキャラクターたちは、まさに歌舞伎向きですし、若い役者さんたちも
楽しんでキャラクターになりきっているのも魅力的でした。
吉例顔見世大歌舞伎
堀越勸玄 初お目見え
この月の目玉は、テレビでもさんざん取り上げられた、海老蔵さんのご子息
勸玄くんの初お目見えでしょう。
海老蔵さんのブログでも、お昼寝状態のまま歌舞伎座に運び込まれて、
舞台直前に起こされてもぐずりもせず、ちゃんと紋付に着替えて舞台に立つ。
大物二歳児の姿が、毎日のように更新されていたので、
行くまでの時間も、とっても楽しみでした。
実際に見た舞台でも、よちよちと花道を歩く姿や、
小さな扇子を膝の前にちんまりと置いて、お父さんに合わせてお辞儀をする姿、
「堀越勸玄にごじゃりまする~」と歌舞伎座いっぱいに響き渡る、
元気いっぱいの声と、もう可愛すぎて可愛すぎて、とっても幸せな気持ちになりました。
これを立派に25日間勤め上げたというのですから、本当に素晴らしいことだと思います。
またぜひ勸玄くんの成長した姿が観たいものです。
元禄忠臣蔵 仙石屋敷の場
さて、11月は顔見世と合って、勸玄くん以外にも素晴らしい演目、俳優さんが
目白押しでした。
元禄忠臣蔵の仙石屋敷の場では、仁左衛門さんの大石内蔵助のくどきが見事で
舞台袖で蹲っている四十七士の面々も、本気で涙しているのではないだろうかと思うほど
歌舞伎座が涙にぬれました。
勧進帳
さらに、勧進帳では幸四郎さんの弁慶、染五郎さんの富樫で、
息の合った掛け合いに、満足しました。
昨年見た(2014 11月)染五郎さんの弁慶の記憶がまだ新しいので、
ちょっと振り返ってみます。
まずは、ひたむきさが胸を熱くした染五郎さんの弁慶。
この親子の弁慶は、さすがに似ている所もあるのですが、とにかく正反対。
丸い球体のような幸四郎さんの弁慶に対して、染五郎さんの弁慶は
触ると感電しそうなほど張りつめた緊張感を纏っています。
体力的には若い染五郎さんの方があると思うのですが、舞台を見ていると
このまま毎日公演してたら死んじゃうんじゃないかと思われるのは染五郎さんの方。
とにかく全力投球。見ているこちらも、ぐったり疲れてしまうほどの
すさまじいエネルギーを放っています。
また、山伏問答にも非常に個性が出ていたと思います。
幸四郎さんの歌を歌うかのようなセリフ回しは耳に心地いのですが、
まあ、あらかた何を言っているか分からないのに対して、
染五郎さんの山伏問答は、意味を伝えようという意図がはっきりと見え、
初めて意味の分かった個所もあったほど、きちんと問答になっていました。
延年の舞は、やはり見ていてスムーズなのは幸四郎さんでしたが、
身体能力の高さや迫力は、染五郎さんも負けてはいませんでした。
花道の引っこみも、やはり染五郎さんの若さあふれる力強い飛び六法は秀逸でした。
これは、体力のある時に幸四郎さんの舞台も見てみたかったと思うほどでした。
六法って、こういう動きなんだ…と納得できるような、軸がぶれず迫力のある六法でした。
今回はお父様に弁慶を譲りましたが、また染五郎さんの弁慶もぜひ見たいです。
河内山
11月最後の幕は、海老蔵さんの河内山。
初めて海老蔵さんの河内山を見ましたが、なかなかはまっていて面白かったです。
高僧を騙って上品ぶっている様も見事でしたし、最後の「バ~カめ~」も
海老蔵さんらしい大音声で、胸がスッキリしました。